ねこのの。

 

6章:紡ぎだす、未来

   

6-1 迎盆

 八月13日。お盆の入り、迎え盆の日。――――――はるねぇが家を出て行ってから、六日が経過した。
 これから三日間に渡り、沢山の知らない親戚が和泉家を訪れ、線香をあげて行くのだろう。今年もまた、例年通り、一家全員が対応に追われるのだろう。
 ――――だが、今年ははるねぇがいない。
 もちろん、主に家族の用事だけをこなしていた、はるねぇのことを知っている人はいない。今年もまた、何ごともなく過ごしていくのだろう。


 夜。階下から聞こえてくる誰かの声を聞きながら、自分の部屋で一人っきりで座っていた。
 ただ、ぼんやりと窓の外を眺めながら、取り止めのないことを考えていた。
 ――――『結城君。今、この家にはご先祖様が、そして結城君のお父さんとお母さんがいるんだ』――――
 以前、お祖父さんから聞かされた言葉。あの時は迷信に感じられ、今ひとつ信じ切れなかったが、今年は信じてみたい。
 お盆は故人を迎える儀式。この空間に帰ってきているらしい両親。――――もし、本当にこの空間にいるのなら、頼みたい事がある。
 ――――今すぐにでも、はるねぇに伝えて欲しい。「戻ってきてくれればいいのに」と。そして、いつまでも――――。……いや、この言葉だけは、自分で伝えなければ。
 はるねぇの姿が見えなくなって、既に六日が経った。結局、自分ははるねぇに甘えたいだけなのだと、理解している。理解はしているが、……それでも願わずにはいられない。
 はるねぇの居ない生活には、慣れてきた。それでも、結局のところ……寂しかった。
「……っ」
 寂しさを自覚したとたん、胸が軋んだ。思わず涙が浮かび、――――流れる。
 そんなときだった。部屋のドアを、ノックする音がした。涙を大急ぎで拭い、「どうぞ」と答える。
「結城くん、ちょっといいかい?」
 そういいながら入ってきたのは、立秋さんだった。
「…………何です?」
 正直、今は誰にも邪魔されたくなかった。邪魔をされずに、ゆっくりと、はるねぇのことを思い出していたかった。
「まぁまぁ、そんなに嫌そうな声を出さないでくれないか」
「…………スミマセン。でも、今は――――」
「はるねぇとの思い出に浸っていたいって?」
 鋭い気切り替えしに、思わず言葉が詰まった。
「結城くん、はるねぇとの事を、ただの思い出にしてしまうつもりなのかい?」
「……………………」
「もし、そうなら、僕は兄として、その行為を全力で止めるよ」
「でも、もう……」
 そう。出来ることなら、自分だって思い出なんかにしたくはない。でも、もうはるねぇは、ここには居ない。
 はるねぇとの事が、どんどん過去になっていく。――――もう、これ以上はるねぇを、失いたくない。例え、記憶でも。
 失いたくないから、思い出にする。決して忘れないように、思い出として残す。――――もうそれしか、方法がないじゃないか。
「はるねぇは、ここには居ないから。なんてことを考えないでくれよ?」
 あくまで、穏やかな立秋さんの声。
「確かに、今は、はるねぇはこの家にはいない。でも、だからって、はるねぇとの事は終わったわけじゃあない」
 その言葉に込もる思いには、確固たるものが感じられた。
「でも、それは…」
「『でも、それは夢物語なんじゃないか』って? それは違うよ」
「………………」
「結城君。一つだけ、確認させてくれないか」
 真摯な立秋さんの瞳に、思わず居住まいを正す。 
「……なんでしょうか?」
「結城君は、はるねぇのことを、どう思っているんだい?」
「それは……」
 思わず、言いよどむ。やはり、こういう事を面と向かって尋ねられるのは、気恥ずかしいものがある。
 しかし、その気恥ずかしさよりも、はるねぇの思いのほうが何倍も勝っていた。ためらったのは、一瞬だった。
「自分は、はるねぇのことが、好きです」
「……本当に? 身近な異性だから、手っ取り早い恋の対象として、なにか勘違いをしているんじゃないのかい?」
「そんなことは、ありません」
 間髪をいれずに、答える。
「その気持ちは本物かい?」
「はい」
「恋に恋しているだけとかは?」
「違います」
 自分の気持ちを、はっきりと伝えなければ。その思いを込めて、返事をする。
「そうかなぁ。もし、結城君の気持ちが本物なら、なぜすぐにあきらめるんだい?」
「それは……」
 思わず、言いよどむ。『はるねぇは、死んでしまうから』とは言いたくなかった。
 言ってしまえば、それを事実として認めなければならない様に思えて、その事実を認めるのが怖くて、答えることが出来なかった。
「……楽なほうに、逃げてやしないかい?」
 あくまで、穏やかな立秋さんの声。責めている、とかではなく、自分自身で答えを見つけろといわんばかりの口調。
「結城君、恋愛に、近道や楽な道はないよ。もしそんなものがあるのなら、それは、本物じゃあない」
「…………」
「その気持ちが――それが恋だろうと愛だろうと――本物なら、ものすごくしんどいものだよ。面倒くさくて、嫌になって、いつも傷だらけになって、さ」
 遠い目をして語りだす立秋さん。……そういえば、立秋さん、この間もう少しで婚約かと思われていた女性から、別れ話を持ち出されたとか……。
「いっそ、誰も好きになんかならずに、孤高の人生を過ごせるのなら、それが一番楽なのかもしれないね」
「…………でも、それは悲しい生き方だと思います」
 和泉家に来た当初の自分の姿が重なる。あの頃の自分は、なんて悲しい生き方をしようとしていたんだろうと、いまさらながら思った。
「うん。そうだね。でも、誰かを好きになったとしても、自分の中だけで完結させてしまっては、同じ事なんじゃないのかな」
「……自分の中だけで、完結?」
「うん。例えば『相手に思いを伝えない』とか」
「…………」
「本当に好きになった相手に思いも伝えず、自分に言い訳ばかりして、逃げて……一体どうしたいんだろうね」
 確かに。自分は、一体どうしたいんだろう? 『仕方がない』と、ただ流されていたいのか? それで本気だといえるのか?
「もう二度と会えないから? 死んでしまうから? だから気持ちを伝えないなんて、ただのいい訳なんじゃないかな。“自分が傷つかない”ための、さ」
 立秋さんは、意地の悪い笑みを浮かべた。確かに、自分が傷つくのが嫌だから『思い出に』だ何ていって逃げているのかもしれない。
 もう、逃げるのは、嫌だ。逃げるのは、両親のときだけで十分だ。逃げて、悲しい生き方になってしまって、はるねぇを悲しませる事だけは、もうしたくない。
「……何かが吹っ切れたようだね。――――さて、ここに一枚の封書があるんだなぁ。宛名は川島、差出人は―――」
 そう言いながら、立秋さんは右手をひらひらと振って見せる。――――その手には、一通の封筒が。
「…っ!! はるねぇからですか」
 思わず、飛びつこうとした自分を、立秋さんは、やんわりと押し留める。
「まぁまぁ、慌てない慌てない。手紙は逃げないよ☆」
「……ウインクは、やめてください」
「……若ぶってみたかっただけなのに……クスン」
「………………」
 今までの雰囲気を一気にぶち壊した立秋さんに、軽い眩暈を感じた。
 ……こんなことを、彼女さんの前でもやっていたのだろうか。そんなことをふと考えてしまい、脱力感に襲われてしまった。

 はるねぇからの手紙を読んだのは、結局、夜もだいぶ更けてからだった。  

  

  

6-2 決意

『 前略 川島結城 様

  ついこの間まで普通に話せていたのに、手紙だにゃんて。
  正直、何をどう書いたらいいか、分からないにゃん。
  だから――――思いつくままを書くにゃん。

  みのりから聞いたにゃん、私の事探してくれてたって。
  ごめんね。そして、ありがとにゃん。
  
  本当はにゃ、行こうかどうしようか、迷ってたんだにゃ。
  でもあの日、ゆーにゃんが優しかったから。
  ゆーにゃんの気持ちが嬉しかったから。
  思い切っていくことに決めたにゃん。

  だから――――ごめんね。そして、ありがとにゃん。

  思えば、ゆーにゃんには励まされっぱなしにゃ。
  今も――――初めて出会った、あの時も。
  ゆーにゃんは忘れているようだけど、あのベンチ。
  あそこは、私たちが初めて出会った場所にゃんだにゃ。
  捨てられてすぐの私が、ゆーにゃんに出会った、思い出の場所。

  あの時も、ゆーにゃんに励まされて。そして今また、励まされて。
  本当、お姉ちゃん、失格だにゃん。
  でも、だから、最後くらいは、一人で迎えようって決めたんだ。

  ゆーにゃんのお父さんお母さんは、死んじゃってて。
  もう絶対、どんなに想っても望んでも、会えにゃい。
  でも、私は捨てられただけ。死んじゃった訳じゃにゃい。
  会おうと想えば、会える。……かもしれにゃい。

  目の前で死なれるのって、辛いにゃん。辛すぎるにゃん。
  でももし、死んじゃう前に、行方不明にでもにゃれば……。
  ――――もしかしたら、また、会えるかもしれにゃいにゃん?

  だって、死んじゃったのかどうか、分からにゃいんだもの。
  もしかしたら、どっかで生きているかもしれにゃいんだもん。

  だから、私は、絶対にゆーにゃんの前では死なないんだにゃ。
  ――――――死ぬもんですか。
  ゆーにゃんだって、「一人で死んでくれ」って言ってたにゃん。

  だから、私は、星野を去るにゃん。
  そして、あちこち旅をしてみようと思ってるにゃん。
  とりあえずは、横浜を目指すにゃん。
  やっぱり、みのりの彼氏には、会ってみたいにゃん。

  その途中、もし、昔の私みたいにゃ人に出会ったら。
  ――――生きることに絶望している人に出会ったら。
  私が、ゆーにゃんに教えてもらったように、
  今度は私が、教えてあげられたらにゃって、思うんだにゃん。

  だからにゃ。ごめんね。そして、ありがとにゃん。ゆーにゃん。
  私、ゆーにゃんに出会えて、良かったにゃん。

  ゆーにゃん、幸せを、ありがとにゃん。
  じゃあ、もういくにゃん。またにゃ。

               お姉ちゃん失格の はるねぇ より 』

――――――――* * *――――――――* * *――――――――* * *――――――――* * *――――――――


 お盆があけた、数日後。
 夏期講習の後期日程が始まっていた。
 参加者が一名の集中講義も、後もう少し。もう少しで、この夏も終わる。
 ――――黒板に、フェルマーの定理が書かれていく。
 それをノートに書き写しながらも、意識は青色の空と巨大な積乱雲に飛んでいく。
 決意というものは、してしまえば心を楽にするものだった。
 一度硬く決意してしまえば、退屈で陰鬱な受験勉強ですら、貴重なものとして認識できるし、耐えられる。

 はるねぇのことも、きっと帰ってくると、信じることにした。

 悩むという行為は、決意に至るまでの覚悟のプロセスなのだと、そんなことを思う。
 重要なのは、決意の後の行動うであって、プロセスはきっと無駄ではないが、無駄が多い。――――そう、思う。
 意識のベクトルを確固なものとした時、人は案外、ふてぶてしく笑うものなのかもしれない。

 あれから、ふとした折に、はるねぇにメールを送っている。
 ――――流れ星をみた、とか、トンボの羽化を見た、なんてたわいもない、けれど共有したい感動を、送っている。
 勿論、返事は一切ない。でも、『返事のないのは、無事な証拠』だと、自分は信じている。
 …………一体、何処で何をやっているのやら。ふと、そんなことを考えて、自然と微笑が浮かぶ。
 はるねえは、当初の目的どうり、無事に神明さんのところに着いたそうだ。そして、一晩いろいろなことを語り合った後、再び旅立って行ったらしい。
 ――――――――――そう神明さんが教えてくれた。
 話した内容は、『女の子だけの、秘密 ☆』といって教えてくれなかった。けど、きっと楽しい一晩だったのだろう。

 毎日が短かった。“光陰矢のごとし”という表現がピッタリなほどに、あっという間に過ぎ去っていった。
 でも、この二週間は長かった。
 分かってはいた事だったが、やはり辛かったし、何より寂しかった。――――――神明さんは、こんな気持ちを一年間も続けたんだそうだ。
 はるねぇのいない食卓は、どこかが欠けていた。
 夜の自室に、うるさい姉が乱入してくることもなく、夏休みの宿題は淡々と終わっていった。
 友人と遊んで帰っても、玄関で迎えてくれるのは詩穂さんだった。
 両親をなくしたときとは違う、寂しさ。きっと、これが“切なさ”というものなんだろうと、ぼんやりと思う。
 ――――今晩、また、メールを送ろう。そう想い、意識をノートに集中させた。……はるねぇに恥ずかしくないよう、自分も頑張らねば。
 今すべきことは、この波動方程式を理解し、覚えることなのだから。きっと。
 …………そして、数日後に控えた、恐怖の祭典に備えることなのだ。絶対に。

 ――――今年もまた、わがクラスの学校祭の出し物として、“メイド喫茶”が待っていた。
 会長の高笑いを意識から追い出す。そして、教師の説明に耳を傾けることに集中する。

 窓の外には、青空が広がっていた。高く、そして何処までも。――――――夏が、終わっていく。

  

  

6-3 手紙

 昼間うるさいほど鳴いていた蝉が、いつのまにか静かに飛ぶトンボへと変わった。
 精一杯に茂っていた木々の葉も色づき、そして、静かに降って来ている。
 風が少し、肌寒く感じられる様になった。
 ――――――秋の日の休日。今日からは、夜が昼よりも長くなっていく。
 足元の落ち葉を踏みしめ、一人歩いていく。湿った落ち葉で足を滑らさないよう、慎重に歩く。
 谷倉山の遊歩道。動くものは何一つ視界に入らず、世界はただ自分しか存在していないようにさえ、思えてくる。
 道はコンクリートから土へと変わる。急勾配の道。風に揺れる木々の音。微かに香る、落ち葉の匂い。
 谷倉山。現地の人すらあまり知らないという地味な山。でも、自分にとっては、とても大切な山。
 ――――父親との、そして、はるねぇとの、かけがえのない思い出の、山。
 こうして自分一人で来るのは、初めてだった。耳に心地よい静寂が拡がり、澄んだ空気を感じる。
 カタクリの群生地を抜け、右に。更になだらかな山の側面を歩き、右に。
 5分とかからずに、Uターンするようにして付いた場所は、大切な思い出の場所。
 古びた木のベンチ。遠くに見える、三峰山。僅かな、本当に僅かな高さの崖。下には民家の屋根が小さく見えた。

 そう。すべてはこの場所から、始まったのだ。はるねぇとの関係は、この場所で始まっていたのだ。自分が、そうと気付かないうちに。
 ――――だから、この手紙は、ここで読むのがふさわしい。
 ポケットから、静かに手紙を出す。――――宛名は、川島結城。差出人は、はるねぇ。
 はるねぇからの、二度目の連絡。はるねぇお気に入りの、猫のマークの封筒は、しっかりと糊付けされている。
 逸る心を静めて、ゆっくりと封を切った。

――――――――* * *――――――――* * *――――――――* * *――――――――* * *―――――――― 

『 前略 川島結城 様

  お元気ですか? お元気だよね。
  へへっ。久し振りだにゃん。こうして文字を書くのも。
  書き終わるのに一杯時間がかかったから、
  ゆっくりと読んでにゃ。

  いつも、メールをありがとう。
  ゆーにゃんからのメールは、大切なお守りにしてるにゃん。

  今、私は、夜の東京を、歩いて廻っているにゃん。
  都会って、ほんとに、空が見えにゃいんだにゃん。
  ……一杯、建物があって、空がにゃ、狭いにゃん。
  光も一杯あって、星がにゃ、全然見えないにゃん。

  人も、沢山いるにゃん。それこそ、掃いて捨てるほどに。
  ――――なんかごみ扱いしちゃったけど、ほんと、びっくりだにゃん。
  こんなにも、沢山の人がいるのに、みんな自分の事しか考えてにゃい。
  そんな気がして、悲しくて、仕方がにゃいにゃん。
  昔、喧嘩しちゃった時に、ゆーにゃんがいってたよね?
  「一人にさせろよ!」って。
  そう言った訳が、少しだけ分かったにゃん。
  都会の人たちって、そうなっちゃうんだね。
  それって、悲しいことだにゃん。

  東京に着いてからは本当に大変で、
  何度も、泣きそうになったにゃん。
  離れていても、ゆーにゃんのことばかり考えてるにゃん。
  やっぱり、寂しいにゃん。会いたいにゃん。
  自分で決めたことなのに。……駄目なおねえちゃんだにゃあ。

  でも、きっと、大丈夫にゃん。
  私は、ゆーにゃんが、大好きにゃん。
  すぐいじめるけど、時々冷たいけど、
  それでも優しいゆーにゃんが大好きです。

  書いてて少し照れちゃったにゃ。
  きっと、ゆーにゃんはもっと照れているよね。
  ……耳、真っ赤だよ? ゆ〜にゃん。

  これからもよろしくね、ゆーにゃん。
  もう会えないのかもしれないけど、
  一緒に頑張っていくにゃん。
  私とゆーにゃんは、
  ずっと家族にゃんだから。姉弟にゃんだから。

  ゆーにゃんは私の、一番大切な人にゃんだにゃん。

  また一緒に、星が見たかったにゃん。
  ずーっと。二人で。

  もし、私が生まれ変わったら、
  生まれ変わることが出来たにゃら、
  絶対に、ゆーにゃんのところに帰るにゃん。
  だから、絶対に、見つけてにゃ。
  そして、ゆーにゃんが先に「お帰り」って言うにゃん。
  「ただいま」って言いたいから。

  お姉ちゃん命令、だにゃん。

  それじゃあね、ゆーにゃん。
  いつまでも、ずーと、大好きだにゃん。

        ゆーにゃんに一目会いたかった はるねぇ より 』

――――――――* * *――――――――* * *――――――――* * *――――――――* * *―――――――― 

 読み終えて、ゆっくりと息を吐く。思わず、言葉が漏れる。
「……くっ。この、ばか姉が…………」
 駄目だ。泣いちゃ、いけない。はるねぇは、きっと今この瞬間にも、頑張っているんだから。自分は、笑顔でいなきゃ……
 秋の風が、優しく吹く。落ち葉が、励ますかのように、ささやく。空気に、土と落ち葉の懐かしい香りが広がる。
 この山は、今日も、昔も、きっと未来でも、変わらない。いつまでも、ここに佇んでくれているだろう。
 空を見上げる。視界の先には、何物にも遮蔽されない、パノラマの青空。
 高く、澄んだ空は、届くことのない高さであり続け、降りしきる光の波長は辺りのすべてを輝かせる。

「ああ……」
 声の意味する感嘆は誰にも伝わることなく、秋の空気に溶けて消える。
 僅かな風の音、感触。少し湿った空気に、土と、木と、落ち葉の僅かな香り。
 降りしきる光の暖かさ、衣服の感触。溢れそうなほどの、はるねぇへの想い。
 更に数万、数億の要素が、分子が、光が、感情が、織り合い、繋がり、出来上がった、たった二文字の感想だった。
 見上げ続けている空には、一片の飛行機雲。
 音速で大空を飛ぶ飛行機が、限りなくゆっくりと、高い青空にまっすぐな白の軌跡を残していた。
 あの時、待ち続けた流れ星のように、空を、まっすぐに。

 願う時間は、沢山あった。叶える時間も、きっと、沢山ある。
 真昼の流星。
 願う軌跡は消えることなく、祈る奇跡は今から叶えていける。
 ――――過去も、未来も。今、ここから始まる。
 生まれた奇跡は、きっとめぐり続けるのだろう。
 ――――――何度も。何度でも。
 出会い続けること、愛すること。どんな自分だって、今、ここにいる。
 ――――――その真実を、強く受け止める。

「……はるねぇ、見ているか? ……空が、綺麗だぞ」
 はるねぇへの想いが、溢れてくる
「……この、バカ姉が……。生まれ変わっても……見つけて欲しいだ? …………そんな……こと、この俺に……」
 涙がこぼれそうになる。ぐっと歯を食いしばり、空を見上げ続ける。
 高い青空には、一片の飛行機雲。限りなくゆっくりと描かれる、まっすぐな白の軌跡。
 真昼の流星。願う軌跡は消えることなく、祈る奇跡は今から叶えていける。そう思い、思いっきり、叫んだ。――――はるねぇに、届けとばかりに。
「バ〜〜カ! そんな事、期待するなー!!」
 涙が流れ落ちる。それでも、叫ぶことは止めない。はるねぇへの思いをありったけ込めて、叫び続ける。
「でも、待ってろよーー!!」
 とめどなく流れ落ちる涙で、視界が滲む。

 その日、大気を舞う人口の鳥は、限りなくゆっくりと、まっすぐな流星の軌跡を残していた。
 彼方を目指す鳥のように、空を、まっすぐに。大空高く、ただ、まっすぐに。

 滲んだ空に、真昼の流れ星が、霞んで見えた。

  

  

 


あとがき

 はじめまして。香月と申します。

 ほしのの。本編が終わってから、一月が過ぎてしまいました。
 やっと、ねこのの。も終わりが見えてきました。

 思えば、ノリだけでOP 星待を書き、更に悪乗りをして一章を書き上げてから、
 よくぞここまでたどり着けたものだと、感慨も一入です。

 これもみな、絵板で素敵なイラストをUPしてくださった絵師さん方と、
 ここまで読んでくださった皆さんのおかげだと思っています。
 本当に、ありがとうございました。

 一応、ねこのの。本編には関係のないエピソードを、
 エピローグとして同梱しておきました。興味がありましたら、解凍してどうぞ。
 ねこのの。の二次創作的なものなので、無理にはお勧めしません。
 ――――というか、これもノリで書いたものなので、出来は保障いたしません。

 あと、実は、グランドフィナーレとしてもう一つエピソードもあるにはあるのですが、
 まぁこれは、ねこのの。本編が不評だったときにでも、UPします。(何)

 それでは、今まで、つたない私の作品をここまで読んでくださった皆さん。
 大変ありがとうございました。
                              駄目社会人の香月より


 追伸。なにやらコメントに、私の文章がうまいなどということが書かれていますが、
    それは、気のせいです。上手いのは、吉村さんの文章です。
    私は、それを切り張りしているだけですので。
    このような蛮行を暖かく許して(?)下さった吉村さんに、心からお礼を申し上げます。