見つめ合わなくても


「ねぇ、行こうよ〜」

はるねぇが俺に抱きつきながら、
下から俺の顔を見上げる。

すがるような、物欲しそうな上目遣い。

ついでに頬をほんのりと朱色に染めるものだから、
俺の心拍数は妙に高くなったりする。

正直、可愛い。

だが……

「メドイ」

可愛くても面倒なものは面倒。

しかも、このはるねぇは酒が回ってる。

そんな酔っ払いの戯言など聞いているだけ無駄だ。

「そんな事言わないで、連れてってあげたらどうかしら?」

俺の困った姿を詩穂さんが楽しそう微笑む。

この人、絶対にこうなる事を知ってて、
あの話をしたんだな……

ついでに言うなら、
はるねぇの飲酒を黙認したのもだ。

「行こうよ〜、永野川の蛍〜」

酒の影響だろうか、
普段は二人っきりじゃないと甘えてこないはるねぇが
家族が居る前なのにベタベタと俺にくっ付きっぱなしだ。

寧ろ、当社費四割増しだ。

正面から俺に抱きついて、
胸板に頬擦りして至福って表情をしている。

正直な話、ホタルよりも、
はるねぇをこのままお持ち帰りして、
夜通しはるねぇを愛したくなってくる。

「それはそれで了承だけど、ヤるならウチ以外でやってね♪」

澄ました顔でお茶を啜りながら、
詩穂さんがポツリと言う。

「……俺、そんな事言いました?」

「ううん、そんな表情してただけよ?」

涼しい顔でとんでもないスキルを見せ付けてくれるものだ。

「この人と同じだからかもしれないけどねぇ」

苦笑いを浮かべる叔父さんに微笑みかける詩穂さん。

なんだか、色々と複雑な心境だ。

頼むから、はるねぇはそんなスキル覚えないで欲しい。

………………

…………

……

お盆って事で俺とはるねぇは、
少々久しぶりに星野の和泉家へ帰ってきた。

元気がないのは便りな証。

ぁ、元気と便りが逆か……

とりあえず、あんまり近況報告をしてなかったから、
詩穂さんや立秋さん達に尋問されるような夕飯だったりした。

そこで詩穂さんがはるねぇに、
永野川で見られるという蛍の話をした訳だ。

冬蛍を甚く気に入っていたはるねぇがそれにのらない筈はなく、
浴衣まで引っ張り出してきて見に行こうとせがみだした。

俺は渋りながらテレビにうつつを抜かしていたのだが、
そこで叔父さんの晩酌を強奪して冒頭の酔っ払いはるねぇが出来上がった訳だ。

つまり、あの当社費四割増の甘えも、
計算のうちという事になる。

……はるねぇ、恐るべし。

結局のところ、はるねぇの『お姉ちゃん命令』と、
その甘えっぷりにより周囲から発せられる俺達への生暖かい視線に耐えかね、
俺ははるねぇを連れて永野川までやってきた。

何だかんだ言って、
俺も浴衣に着替えてきてる辺り、
ノってしまっている。

「ゆ〜ちゃん、きれ〜だねぇ〜」

浴衣に草履姿のはるねぇが、
感嘆の声をあげる。

「あんまり、酔いが抜けてないんだから気をつけろよ?」

一応程度に正気を取り戻したはるねぇだが、
酔いが残っているのか足取りが怪しく、
言動もどこかフワフワとした感覚が残っている。

正気を取り戻してるように見えて、
取り戻していないとか、ないよな?

「だ〜いじ〜」

勿論、ここは只でさえ歩き難い石の多い川原。

そこを足元も見ないで、
蛍に気を取られながらちょろちょろと歩き回るのは、
非常に可愛いが見ていてハラハラしてくる。

ドキドキが止まらない、
もしかして、これって恋かっ!?

……んな訳ねぇだろって。

それって俗に言う吊橋効果だし、
目の前の相手とは既に愛しあってる仲だっての。

滑り気味の狙いボケをセルフツッコミで瞬殺する。

そんな事を内心でやった自分が哀しい。

やらなきゃよかった。

「わっ!?」

勝手に切ない気分になっているうちに案の定とでもいうのか、
はるねぇが石を踏み外してバランスを崩す。

「ほれっ」

さっきからずっと観察してたお陰で、
素早くはるねぇの片手を取りつつ背中を受け止める。

「ありがと〜、ゆ〜ちゃん」

にっこりと夏のカラッとした日差しみたいな、
はるねぇから満面の笑顔が眩しい。

「どういたしまして」

その笑顔に焼かれたのか、
妙に頬が熱くなるのを感じながら言葉を返す。

「立って見る必要もないだろ?」

はるねぇの手を引いて、
大き目の岩に腰掛ける。

はるねぇも隣に座ると、
肩を少し重ねるようにして、
そっと俺に寄りかかる。

川のせせらぎと虫の声、
それをBGMにして舞い踊る光の粒を眺める。

お互いに相手を見つめる事はしないが、
肩に触れる熱さが妙に心地よくて、
なんだか穏やかな気持ちにさせてくれる。

はるねぇを感じるっていうのだろうか、
言ってみると妙な感覚だと思う。

結局、俺ははるねぇの、
規則正しい吐息に気づくまで、
ずっと蛍を眺めていた。













〜あとがき〜

ども、You平です。

少々間が空きましたが、
『平凡な日』の3話目を書かせて頂きました。

こちらはチャットでリクエスト頂いた、
『夏蛍』を題材に書かせて頂きました。

今回は余り甘くもなく、
ほのぼのと終わらせて頂きました。

物足りなかったかもしれませんが、
これはこれで楽しんで頂けたら嬉しいです。

それでは〜

(2007年7月30日)