ほしのの。If story 『夏影陽光』

  

1章『喚起する前奏曲』

 

 1・1『川島 結城』

 僕は1週間ほど前に両親を亡くした。
 それだけで僕の中にあった漠然とした未来予想図は粉々に砕け、僕は父さんの実家である星野に住むことになった。
 思い出せるのは限り無い大自然と従姉との思い出。
 もっとも、どちらもいい思い出より悪い思い出の方が浮かぶけど。
 特に後者は3割増しで。
 むしろ、10割増しでもいいかもしれない。
 ……とにかく、これから起こることはある田舎での、あるお話。
 不思議な力は出ないし、地味過ぎるとは思うけどそれでも戦うお話。
 不慣れな日常と、幸せであり不幸になった過去と、何より弱い自分と戦うお話。
 そして、僕たちが幸せで不幸なお話。
 


 1・2『日常転化』

 東京。
 ビルやマンションが所狭しと建てられたコンクリートジャングル。
 その内のあるマンションの一室で一人ゲームをしている少年、川島結城はあまり雨が好きではなかった。
 理由は単純で『濡れるのが嫌』なのと『空気がジメジメする』からだった。
 だからとは言わないが、雨が降って空気がジメジメしている中でやっている『むきりょくえすと。2』もイマイチ気が乗らなかった。
「何で、最初からこんなハードなゲームバランスなんだよ……ていうか、この赤い奴は攻撃しても全然体力減らないじゃんか……」
 そのまま数分間戦い続けるが、倒すのは困難だと判断し、ゲームを中断する。
 もちろん、セーブなんてしていない。
「あ〜、暇だ…」
 そう呟き、ごろりと床に寝る。
 今日は学校も塾も休みであるため、友達の誰かと遊ぼうと思ったのだが、全員塾や外出で遊べる者はいなかった。
 もちろん、自分も勉強をするという選択肢は初めから存在しない。
 つい先ほどまでは父親とやっていたものの、母親を迎えに行くという理由で先ほど出て行ってしまい、今では結城一人でやっている。
「他にやってないゲームなんてあったかな・・・」
 次はどうやってこの暇を解消しようか悩んでいると、不意に電話の音が鳴り響く。
「はい、川島ですけど」
「結城くんかい?」
 結城は受話器を取ると、近所の小学生の父親だった。
 ほとんど会話することはなく、偶然会ったときに軽く挨拶をする。その程度の関係だった。
 それこそ、名前さえ覚えてない。苗字と外見がギリギリで覚えているくらいだった。
「そうですけど・・・どうかしたんですか?」
「落ち着いて、聞いて欲しい」
 男性の声は少しだけ緊張の色が混じっていた。
 そのことが結城の身体を少しばかり緊張させる。
 そして、結城は自分の人生を変える言葉を聞いた。
「―――君の両親の車がトラックと衝突した」
 一瞬、結城は何を言われたのか分からなかった。
 そして、言葉を脳内で反芻していくごとに言葉の意味を理解していく。
「場所は―――」
 場所の名前を聞くと同時、結城は受話器を投げて靴を履き全力でドアを開ける。
 瞬間、冷えているにも関わらずじめじめとした空気が全身が包む。
 結城はそんな空気を少しだけ煩わしいと思いながら、外廊下を走る。
 エレベーターの前に立ちボタンを5、6回押すが、すぐに来る様子はない。
「くそっ、こっちは急いでるのに…」
 結城はじれったくなり、階段から降りようとする。
 滑りやすいのも気にせず、ただ黙々と階段を下りていく。
 そして、階段を下りきってこのマンションの駐輪場に走る。
 何度かバランスを崩しかけるが、それでも転ばずに何とか自転車の元にたどり着く。
 自転車にまたがると全力で扱ぎ始める。
 雨粒が結城の全身を襲うが、そんなことは関係ないと言わんばかりにひたすら扱ぐ。
 20分ほど扱ぐとそこには人だかりが出来ていた。
 結城は自転車を降り、人垣を掻き分け、人だかりの中心にたどり着く。
 結城は少しだけ、期待していた。
 あくまで、重症ではあるけど実際は命からがらで生きているものだと。
 だが、目の前の光景はそんな『妄想』を完膚なきまでに破壊するかのような惨劇だった。
 結城の両親が乗った車はトラックに挟まれて紙コップのように潰されていた。
 フロントガラスは半分以上が血によって塗りつぶされており中を見るまでもなく凄惨な状況がはっきりと分かった。
 そんな光景を見て、結城は膝から崩れ落ちる。
 先ほど電話をかけた男性が傘を片手に結城の下へと小走りで近づいてくる。
 男性は何かを言っていた。
 しかし、結城の頭の中には何一つとして記憶されなかった。
 雨は結城の心の代弁をするかのように止むことなく降り続けた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 葬儀から1週間後。
 葬儀はすぐ近くの葬儀所で行われた。
 参加者は50人前後。
 ある者は俯いており、ある者は泣いており、ある者は小声で隣の人間と会話していた。
 結城はそんな様子をぼんやりとした表情でただ見つめていた。
 正確にはその中心にある二つ写真。
 それには若い笑顔を浮かべる男女の姿があった。
 それを見た瞬間に結城の中で悲嘆の感情が込み上げてくる。
 しかし、人がいるということもあり、結城はそれを必死に堪える。
 そんな努力のおかげか、涙が流れることはなかった。
 もしくは、涙を流す余力さえないのか。
 結城がそんな風に堪えている間に葬儀は終了した。
 そして、葬儀の片付けが始まってもそのままの姿勢でぼんやりとし続ける。
 葬儀が終わったためか、葬儀中より若干、騒がしくなる。
 照明に照らされているはずの部屋は、結城の目にはどこかぼんやりと儚く映った。
 周りはそんな結城を見て、小声で何かを話している。
 もっとも、本人にとってはどうでもいいことだった。
 しかし、それでもここにいるのは迷惑だと感じたのか、ゆっくりと立ち上がる。
 このとき、一瞬だけ立ち眩みをおこすが、そんなことは一切気にせず自分のマンションへと向かう。
 玄関を開けると中はほとんど入ってこない街の光以外に灯りとなる物は存在しない
 しかし、そんなことは関係ないと言わんばかりに結城は玄関の鍵を閉めてから部屋の中へ進み、ベッドにダイブした。
 そのまま、意識を深い闇へと意識的に落とそうとする。
 そして、意識は望み通りに深い闇へと落ちていった……。
 この時、結城は自分の未来のことを考えることを放棄していた。


 1・3『強制承諾』

「これからは、ここが結城君の家だ」
 結城の祖父、和泉夏紀は目の前の家を指してそう言った。
 結城は目の前の大きく古びた家とその背景のように存在する雄大な自然を見ながら、今すぐ逃げ出したいという感情に駆られた。
 正確に言えば、戻りたいという感情だが。
「おじゃましま……」
「ゆーちゃん!」
 結城が玄関を開けると同時、玄関の前から声がする。
 それは結城の目の前にいる橙色の髪の少女だった。
 少女は笑顔で結城を見ている。
「久しぶりだね、ゆーちゃん」
 少女はもう一度、結城を呼ぶ。
 そんな少女の顔を見て、結城は少しだけ過去を思い出す。
 昔と同じだ。
 そう思いながら、結城も言葉を返した。
「久しぶり、はるねぇ」
 『はるねぇ』と呼ばれた少女、和泉榛名は笑顔のままで両手を広げる。
 いわゆる、『お姉ちゃんが抱きしめてあげるよ?』ポーズだ。
 そんな榛名に対し、結城はゆっくり近づいて。
 ―――デコピンを喰らわせた。
 すると、榛名は額を押さえながら呻く。
「勝手にやってろ。バーカ」
 そう言うと、靴を脱いでさっさと家に上がる。
「ば、馬鹿って言うなぁ!」
「お祖父、僕の部屋はどこですか?」
 結城は榛名の言葉を無視しながら、祖父に部屋の場所を聞く。
「あぁ、榛名と一緒の部屋だよ」
 その言葉を聞いた瞬間、結城の表情が凍りついた。
 はるねぇと一緒の部屋で寝る。
 結城の頭の中にそんな言葉が一瞬だけよぎる。
「……他の部屋はないんですか?」
 結城は必死に冷静さを取り繕いつつ祖父に聞く。
「まだ慣れてない土地だし、同年代の子なら安心すると思ったんだが……まぁ、問題があれば言ってくれ」
 そう言って、夏紀はリビングまで言ってしまう。
 結城は本気で頭を抱えたくなるのを我慢しながら、どうすれば部屋を変えてもらえるか考える。
 そんな結城を見ていた榛名が何かを思いついたのか笑顔になり、
「もしかして、私と一緒の部屋だと興奮しちゃう?」
 その言葉を聞いた瞬間、結城の顔が榛名の方へと向く。
 その目には殺意のようなものが込められている。
 そして、数秒の沈黙ののち。
「ありがとう。はるねぇを見てたら大分冷静になれた」
「な、それってどういう意味ー!?」
 結城の侮辱の言葉に榛名が怒る。
「いや、はるねぇを見てたら・・・ねぇ?」
 結城は榛名を見ながら鼻で笑う。
「これでも、年上のレディーなんだからね!」
 そんな結城の態度に増々怒りを増大させていく榛名。
「レディーだったら、もう少しおしとやかにしてくれ」
「あーもー、ああ言えばこう言う!」
 とうとう、榛名の怒りのボルテージが最大にまで上がり、左足で一歩前に踏み出す。
「おねえちゃんチョッープ!」
 榛名は全力でチョップを繰り出す。
 しかし、その一撃は空しく空を切る。
 その上、榛名は全力の一撃を繰り出したために体勢を崩さないようにするので精一杯でそれ以上の行動を取れなかった。
 そして、その隙を結城は見逃さなかった。
「弟デコぴん」
 そう言って、本日二度目のデコぴんを行う。
 中指はいとも容易く榛名の額の前にまで近づく。
 そして、結城は容赦のない一撃を放つ。
 その一撃を食らった瞬間、本日二度目の呻き声をあげる。
「うぅ……ゆーちゃんのイジワル」
 そう言うと榛名は自分の両手で顔を覆う。
「あ……悪い……」
 結城は少しだけやりすぎたかも知れないと思った。
 だから、少しだけ頭を下げて謝罪の意思を見せる。
 すると、結城の頭に衝撃が来る。
 頭の上には榛名の右手がある。
 その右手は拳骨を形作っていた。
 そして、榛名は満面の笑みを浮かべていた。
 結城が想像した表情とは対極の位置にある表情だった。
「まったく、こんなのに引っかかるなんてゆーちゃんってば単純ー」
 榛名はニコニコしながら得意げに言う。
「……」
 一方、結城は状況を理解したのか暗い表情をしている。
 心なしか、その手は震えていた。
「昔からゆーちゃんって優しいっていうか、甘いっていうか…」
「……」
 結城の手が榛名の頭へと伸びる。
「ふぇ!?」
 榛名は咄嗟に危険を感知し、反射的に身構える。 
 しかし、結城の手は榛名の予想に反して攻撃の意思を持たずにただ榛名の頭を撫でる。
「……ゆーちゃん、怒って……る?」
 おずおずと聞く榛名の表情は撫でられる前よりも怯えの表情が大きい。
 そして、状況は突然に加速した。
 結城が手で榛名の頭を自分の側に引き寄せ、さらに頭を腕を使って動けなくする。
 そして、空いた左手を本日三度目のデコぴんを行う状況に移行する。
「ゆ、ゆーちゃんは優しい子だからそんなヒドイことしないよね……?」
 その言葉に左手の行動を停止する。
 榛名の言葉に何かを感じたわけではなく、単純にこのままデコぴんを行った後のこと……つまり、どのような仕返しが返ってくるかについて。
 まず、八年前と今の榛名の違いについて考える。
 そして、ゆっくりと今頭を捕まえて怯えている榛名を見る。
「はぁ……」
 結城はため息をつくと腕による拘束を解除する。
「……何も、しないの?」
 先ほどの不意打ち攻撃のせいか、少し警戒しながら結城に訊ねる。
「別に。特に理由なんてない」
 結城はそうぶっきらぼうに答える。
 まさか、要約すると『仕返しが怖い』からなんて理由でやめたなんて言えば何と言われるか分からないからだ。
「……ゆーちゃんは変わらないね」
 ふと、榛名は昔を懐かしむように呟く。
「そうか?」
「そうだよ。優しいところとか変わらないよ」
「さっき、甘いって言わなかったか……?」
「き、気のせいだよ!」
 春名は慌てて笑顔になる。
 結城はそんな春名をジト目で見る。
「……まぁ、はるねぇも昔とあんま変わらないみたいだけどな」
 結城も昔を懐かしむように呟く。
「そうかな?」
「あぁ、病弱なはずなのにお転婆なところとか昔と変わらないさ」
「……それって、褒めてる?」
 今度は榛名が結城をジト目で見る。
「褒めてるように聞こえるなら褒めてるんじゃないか?」
 しかし、結城はそんなことを意に介せずに飄々と返す。
「……素直じゃないところも昔とおんなじだね」
 榛名は何かを諦めたようなため息を吐きながら小さく言う。
「結構、素直だと思うんだけどな……」
「絶対嘘だよ。それ」
 結城の言葉に対して榛名は高速でツッコミを入れる。
「はるねぇと話してると本当に疲れる……」
「それはこっちの台詞だよ!?」
「そんなことより、早く部屋へ案内してくれよ」
「……」
 少し沈黙した後、わざとらしくため息と吐く。
 が、すぐに笑顔になり。
「じゃ、部屋に行こっか」
「待て、今のため息は何だ」
 結城は反射的にツッコミを入れる。
「気にしないでいいよ」
「じゃあ、気にしない」
「少しは気にしようよ!?」
「どっちだ」
「気にしつつ気にしないようにするんだよぉ!」
「意味が分からん」
「もういいよ……」
「さいですか」
「それじゃ、こっちだよ」
 そう言われ、結城は素直に付いていく。
 この時、結城は少しだけではあるけど、それでも、確かに両親の死の悲しみが和らいでいた。

 1・4『空想起源』

 静かな朝。
 鳥の囀りと緩やかな風の音だけが耳に流れ込む。
 朝陽は気持ちのいい程度の加減で全てを照らしている。
 結城は約1週間でこの心地よい環境を拒絶しようという心はほとんどなくなっていた。
 もっとも、まったくないわけでもないが。
 それでも自然の心地よさには敵わず二度寝を開始しようとする。
「起きろー!」
 しかし、耳元で発生する大声によって結城の意識は無理やり覚醒させられる。
「なんだよ……うるさいなぁ……」
 心底、億劫だと言わんばかりに結城は呟く。
「こんないい天気なんだから、寝てばっかりじゃ損だよ!」
 榛名はそう言って、毛布越しに結城の上に思いっきり圧し掛かる。
「……重い」
 しかし、結城は寝起きのせいか無抵抗のまま起きようとはしない。
「あーもー、早く起きないともっとやるよー?」
 榛名は呆れ顔でそう言って、身体を揺らし始める。
 しかし、結城はそれでも根気強く寝ようとしていた。
 もはや、眠気はほとんど吹き飛んでいる。
 それでも、これで起きたら榛名に負けたような気がする。
 そんなよく分からない意地のみで結城は起きまいと決めていた。
「そんなに強情なゆーちゃんには、こうだっ!」
 そう言って、榛名は手を伸ばす。
 その手は結城の頬を掴み、引っ張り始める。
「あははっ!ゆーちゃんのほっぺって柔らかーい!」
 そう言いながら、榛名は結城の頬で遊ぶ。
 そんな榛名の攻撃に耐えられなくなったのか、結城は上半身だけ起こして榛名を見る。
「あ、やっと起きたー」
 榛名は頬を引っ張っていた手を放す。
 しかし、結城は開放されてもじっと榛名の顔を見つめ続ける。
「ど、どうしたの?」
 榛名は結城の態度にやりかえされるであろうことを察し、額を押さえながら尋ねる。
 すると、結城はおもむろに榛名の方へと手を伸ばし始める。
 その行動に榛名は本能的危機を感じ、額を押さえたまま目を閉じる。
 しかし、榛名の予想に反して結城の手は榛名の頬を掴む。
「……ゆーちゃん?」
「はるねぇの頬も十分に柔らかいぞ」
 そう言いながら、結城は榛名の頬で遊ぶ。
「……痛いんだけど」
 結城は榛名の言葉を完全に無視して遊び続ける。
 最初は仕返しだったものの、予想外に面白かったらしい。
 そんなふとした瞬間に頬が緩まないとも限らない結城の態度が気に入らなかったのか、榛名は再び結城の頬を掴む。
「……何やってるんだ?」
「だって、ゆーちゃんがほっぺ掴むんだもん」
 榛名の目には何か闘志のようなものが込められていた。
「それは、はるねぇが……」
「ゆーちゃんが掴むんだもん」
 取り付く島もなかった。
 そのまま、しばらく見詰め合う。
 否、それは睨みあうと形容した方が適当であろう視殺戦を展開する。
「……はぁ」
 結城は溜め息を吐くと手を離した。
 早々にこれ以上やることは無駄だと悟ったらしい。
 それを降伏宣言だと受け取ったのか、榛名も手を放す。
「……なんか、やってることがマンネリ化してないか?」
 唐突に結城はそんなことを言い出す。
「んー、ゆーちゃんが裸踊りでもすれば少しは変わるんじゃないかな?」
「誰がそんなことするか!」
 とても速いツッコミだった。
「えー、どうしてー?」
 榛名は不満な顔をしながら批判の声をあげる。
「何が悲しくて踊らなくちゃいけないんだ。しかも、裸で」
 結城は至極真っ当な面白みのないツッコミをした。
「一緒にお風呂にも入ったことがあるのにー」
「何年前の話だよ。ていうか、昨日も言ったよな?」
「今でも……一緒に入って、いいよ……?」
 榛名は恥ずかしがりながら言う。
「くだらないこと言ってないでいいかげん降りろ」
 そう言って、未だに結城の上に榛名を無理やり降ろす。
「まったく、ゆーちゃんってばノリが……」
 榛名は布団から起きた結城に文句を言おうとして、途中で停止する。
「ん?どうし……」
 結城は榛名の言葉が止まったことが気になり、その視線の先を追って見る。
 視線の先は結城のズボンだった。
 正確に言えば、そのズボンの著しく盛り上がっている部分だが。
「ゆ、ゆーちゃんも男の子だもんね!ごめんね、先にリビング行ってるね!」
 榛名は頬を赤らめながら急いで部屋から出て行く。
「ま、待て!はるねぇ!」
 結城は榛名を止めようとしたが、止めてもどう説明するか浮かばないことと、リビングに行けばすぐに会えるということと、まだ着替えていないことからすぐにやめた。
「なんだかなぁ……」
 一人っきりになった部屋で小さく呟く。
 返事を返す者はいない。
 とりあえず、着替えることにする。
「まったく、はるねぇは……」
 結城はどうやって榛名に説明するか考える。
 どうすれば、はるねぇを納得させることが出来るか。
 それを考えているうちに結城は着替えを終える。
 まだ、どう言えばいいかは考え付いていない。
「まぁ、いいか」
 下手に言いふらさないよう言えば、かえって言いふらされるかも知れない。
 結城はそう結論を出し、リビングに下りる。
 この判断が甘いということに気づくのはもう少し先の話であり、
 この平穏な日常が一人の少女によって揺れ動くことになるのはさらに先の話である。



☆あとがき
残念ながら、まだ続きます。
というか、4章構成です。無駄に分けすぎです。
みのりんが出てきてないのは仕様です。次の話で笑いたくなるくらいに出てきます。
とりあえず、次回は萌え度が5割増しです。多分。
あと、次回のサブタイだけ予告します。これで展開が分かるとは思えないけどな!(何
『神明 みのり』『黎明開始曲』『幽明賛歌』『宵明祭』
以上の4話です。あくまで予定だけど。(何
感想をくれると小躍りして喜ぶことがなくはないかも知れません(何
というわけで、次回も期待しないで待っててね!(何

 


  

2章『恋を承る狂想曲』 体験版

  

 2・2『黎明開始曲』

「みのり呼んでくるね!」
 結城に対してそう言って、榛奈は軽トラックの荷台から降り、目の前の一軒家へと向かう。
 表札には『神明』と書かれている。
「みーのーりー!来たよー!」
 結城は走りながら叫んでいる榛奈に対して、なんとなく子供っぽいと思った。
「もしかして、みのりって人も実ははるねぇと同じタイプなのかな……」
 結城は学校で何度かみのりを見かけていた。
 そもそも、学校の生徒数自体が少なく、一緒に授業を受けることも何度かある。
 授業中は比較的静かであるし、他の友達と話しているときも静か印象を受ける。
 ただ、それは見ている時の話であって、毎日監視しているわけではない。
 むしろ、授業を含めても両手を必要としない回数しか見ていないのにその人間のことが分かるわけない。
 現に、授業中の榛奈しか知らない人間ならば、彼女のことを勉強出切る出来ないは別にして静かな生徒だと思うだろう。
 しかし、授業が終わったときの彼女を見れば、その考えは跡形もなく崩れ去るだろう。
 榛奈がそういう人間である以上、その友達もそういう人間じゃないという保障はない。
 だから、結城はみのりを見たとき、内心で少し驚いた。
 白いワンピース。
 儚いように見えるのに丈夫そうに感じる雪色の肌。 
 そして、そんな白さの中で引き立てられている朱色の髪。
 結城は今まで見た人と同一人物なのかさえ疑いそうになった。
 そんな結城の思考を知ってか知らずかその少女は笑みを向けてお辞儀をした。
 そんな少女を見て、結城は少しだけドキリとした。
 日は昇りきっており、その紫外線を存分に地上に振るっている。
「それじゃ、二人とも乗って」
 運転席の方から聞こえる立秋の声に、榛奈と少女は手早く荷台に乗るると、軽トラックが動き出した。
 この時点では、結城はみのりのことをただ雰囲気が大人びているお嬢様くらいにしか思っていなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 十数分ほど車で走った先にある雑木林。
 さらにそこから数分ほど歩くことでたどり着く永野川。
 その川に結城は水着姿で足を浸けながらただ立っている。
 理由は結城の真後ろにあった。
 榛奈が学校指定の水着に着替えようとしているからだ。
「ゆーちゃん!絶対絶対絶対見ちゃ駄目だからね!」
 榛奈は大きな声で結城に念入りに注意していた。
「見ないって……」
 やたら大きな声で注意してくる榛奈に呆れながら着替えが終わるのを待っていた。
「結城くん、着替え終わったよー」
「わー!まだまだ!私まだ着替え終わってないー!」
 榛奈はみのりの出任せに慌てて否定の声をあげる。
 しかも、顔を真っ赤にして首を大きく横に振るという動作付きで。
「はるねぇ、何で家で着替えてこなかったんだよ……」
 そんな榛奈に小さい声で抗議の声をあげる。
「榛奈。弟になら見られてもオーケーじゃない?」
 みのりは着替えを行っていないために余裕の発言である。
「全然、オーケーじゃないよぅ!」
 一方、榛奈はよほど恥ずかしいのか、相変わらずのオーバーアクションである。
「じゃあ、さっさと着替えなさいって」
「これでも早くしてるんだよぅ!」
 先ほどのように漫才のような会話が展開される。
 ただ、先ほどと違うのは結城がそれを見ることが出来ないということ。
 そして、先ほどよりも聞こえる音が多いと言う事だ。
 鳥の囀りなどだ。
「んー、冷たくて気持ちいー!」
「あははっ。心底楽しんでるなぁ。この小学生は」
「小学生じゃないもん!」
「もー、何でみのりは水着持ってこなかったのー?冷たくて気持ちいいよー?」
「着替えるの面倒だし」
「もー」
 結城、目のやり場に困る
「ん?結城くん、どうかした?」
「いや、別に……」
 みのり近づく
「もしかして結城くん、おねーさんの水着姿にドキドキ?」
 嬉しそうだった。
「ち、違っ」
 図星
「あれ、みのり?何々?内緒話ー?」
「結城くんがね、榛奈の水着姿に悩殺されたんだって」
「えぇ!?」
「いや、そんなことまったく言ってないです」
 榛奈のほうを向き
「はるねぇも真に受けるな。馬鹿」
「あははっ。まぁ、榛奈じゃお子様過ぎてドキドキできないよねー」
「まったくです」
「むぅー、そんなの嘘だもん!」
 結城を指差し
「ゆーちゃん、恥ずかしがるとすぐに耳真っ赤にするから分かるもん!」
「そうなの?どれどれー?」
「うぁ……」
 みのりの顔が近づき、不可能だった。
「あははっ。ホントに真っ赤だ」
「ほら、言ったとおりだー」
 そして、結城の
「ゆーちゃんのえっちぃー」
「だ、だから違うっつってんだろ!」
 水を蹴り上げ、榛奈の顔に当てる
 思わず、小さく悲鳴をあげる。
「よーし、ゆーちゃんがそうするなら戦争だー!戦だー!」
 取り出される三挺
「榛名、こういう準備は抜かりないね……」
「えへへー」
「じゃあ私は無敵ね。遠くからスナイパーのようにいじめるよ」
「ええー、みのりずるいー」
「水着着てないんだからしょうがないよ」
「榛奈VS結城くんね。夢の姉妹対決ってことで」
「ルールは『頭に当たったら死亡』ね」
 みのりは一瞬、考えるような仕草をした後、
「……勝ったら何か賞品でもつける?」
「帰りにアイス買おうよー」
 そして、『私、雪見大福が食べたいー』と付け足した。
「いっつも雪見大福で飽きない?」
「それじゃ、負けたら勝者と私にアイスね」
 結城くんもこれでオーケー?
 その言葉に結城は簡単に頷く。
 内心、女の子相手にサバイバルゲームという中学に入ってからは中々ありえないシチュエーションに少し燃えていたからだ。
 試合開始の合図の前から既に何通りもの戦術が頭の中を駆け巡っていた。
 一方、榛奈の方も勝利を確信したような笑みを浮かべている。
「言っておくけど、私、強いからね?」
さらに『お姉ちゃんの愛ってね、核ミサイルより強いんだよ?』などという聞き覚えのある決め台詞を言ってのける事からも、慢心とも言えるような自信のほどが伺える。
「黙れ胸無し姉」
「胸は関係ないのにー!」
「はいはい、それじゃスタート」
 みのりは言葉を言い終える直前に射撃を行い、見事に結城の側頭部に命中した。
 結城があっけにとられていると、みのりは満面の笑みで、
「結城くん、死亡」
「ちょ、ちょっと待てって!今のは反則だろう!」
 結城は慌てて今の行為に対して抗議をする。
 さすがに、これは反則だろうと思ったからだ。
「やったやった、雪見大福だー」
 しかし、榛名はそんなことは気にせず、後に食べられるであろう雪見大福に夢を膨らませている。
「結城くん、戦場では油断しちゃいけないんだよ」
「再戦! 再戦を申し出るー!」
 同意する者のない空しい叫びが自然の中に響いた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 今、結城は息を潜めながら岩に背中を貼り付けている。
 榛奈に何発も打ち込まれ撤退してきたためだ。
 最初、結城は油断していたからだと思っていた。
 しかし、違った。
 榛奈の動きは結城の予想を超えて速かったのだ。
 その動きはとても生まれつきの病弱さを感じさせるものではなかった。
「さすがに、運動部なだけあるな……」
 結城は小さく呟く。
 病気がちではあるが、何年も走りこんでいた榛奈。
 最近は畑仕事を手伝っているものの、それでも総運動量が榛奈に劣る結城。
 勝負の差は明らかだった。
 しかも、結城にとって不利な要素はそれだけではなかった。
「結城くーん?」
 声が聞こえる。
 みのりの声だ。
 手には大きめの水鉄砲が握られている。
 今、結城はこの二人に狙われている。
 幸い、この場に榛奈はおらず、みのりが攻撃できるような位置ではない。
 結城の手にはまだ一発分は撃てる水鉄砲がある。
 少なくとも、今がみのりに反撃できる数少ないチャンス。
 この後も榛奈やみのりに散々やられるだろうが、それでも反撃しないよりはマシだ。
 結城はそう判断し、タイミングを図ために聴覚に全神経を傾ける。
 歩くことによって起きる水を掻き分ける音を聞き取るためだ。
 しかし、そんな結城の行動を予測したかのようにみのりが喋り始める。
「結城くんはそこにいるんだろうから言っておくけど……」
 そう前置きして、一拍間を置く。
 そして、みのりは結城の攻撃を封じるための言葉を言った。
「―――撃たれたら多分、この服は透けちゃうよ?」
 一瞬、結城はこの言葉の意味を理解できなかった。
 脳内でゆっくりと意味を咀嚼する。
 そして、意味を理解すると同時に顔を真っ赤に染める。
 そんなことを一切、考えていなかったために判断に迷う。
 当然、みのりはその隙を逃さなかった。
 と言っても、あくまで普通の速度で近づいて結城を見つけると同時に水鉄砲を構えただけだ。
 みのりを撃とうと思えば、いくらでも撃つこと自体は可能だった。
 しかし、結城は攻撃しなかった。
「ぁ……ぅ……」
 否、出来なかった。
 もはや、結城は精神的にみのりを攻撃できなくなっていた。
 あくまで、ルールは頭を狙うというものであり、服にまともに当たる可能性は皆無だった。
 しかし、『妄想』していた結城はそんな小さいことも思い出せず、背を向けずに逃げることで精一杯だった。
「あはは、結城くんってば面白ーい」
 みのりは笑いながら水鉄砲による射撃を行う。
 一発目は肩に当たり、2発目は頭に当たった。
 しかし、それまでだった。
 水鉄砲の水を撃ちつくしてしまったのだ。
「あーあ、逃げられちゃった」
 逃げている結城を見ながらみのりは楽しそうに呟きながら水鉄砲に水を補給する。
 行動は非常に緩慢としており、結城に対して追撃しようとする気配はなかった。
「みのりー、ゆーちゃんどこにいるか知らないー?」
 そんなみのりに対して、後ろから榛奈が声をかける。
「結城くんならあっちに行ったよ?」
 そう言って、みのりは結城が逃げた方向を指差す。
「よーし、今度は騙されないぞー」
 そう言って、榛奈はみのりのソレよりさらに大きめの水鉄砲を腋に挟んで、両手で自分の頬を叩く。
「さっきは面白かったもんねー」
 みのりは数分前の事を思い出しながら、笑顔で榛奈に言う。
「面白いって言うなー!」
 そんなみのりに榛奈は叫びを返す。
「だって、みのりってば一分近く目を瞑ってたもん」
「もう言わなくていいって!」
 そう言う榛奈の顔は耳まで赤く染まっていた。
 そんな榛奈を見て、とうとうみのりは笑いを堪えきれなくなる。
「……それ以上、笑ったら撃つよ」
 恥ずかしさが怒りに変わったのか、榛奈はジト目でみのりを見ながら水鉄砲を構える。
「ごめんごめん、もうやめるから」
 そう言いながら、みのりは笑いを必死に堪えようとする。
 もっとも、堪えきれていないが。
「ところでさ、結城くんってここに来るの初めてなの?」
「ん、どうして?」
 榛奈はその質問に対して素直に疑問を持った。
 何故、そんな質問をするのか分からないからだ。
「いや、たださ……」
 みのりは少し言い淀みながら、
「奥まで行っちゃってると迷うんじゃない?」
 その言葉を聞くと同時、榛奈の顔が青ざめていく。
 そんな榛奈を見て、みのりは自分の質問に対しての肯定だと判断する。
「でも、来た道くらいは覚え」
「ゆーちゃーん!」
 しかし、言い終わる前にみのりが先ほど指指した方向へと全力疾走する。
「うわぁ、大丈夫かなぁ……」
 みのりは榛奈の生まれつきの身体の弱さを知っている。
 陸上部で頑張っているからこそ、多少の運動では大丈夫なものの、生まれつきの弱さはどうしても残る。
 そして、さきほどまでと違って今は結城を心配している。
 その心配は少なからず榛奈の体力を削る。
「……まったく、しょうがないなぁ」
 みのりはそう呟いて、榛奈を追いかけた。
 

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「大丈夫かな……」
 呟きながら榛奈は走り続ける。
 『例え、遭難したとしても大丈夫だろう』
 そう考えていても、不安が消えなかった。
 だから、榛奈は走り続けた。
 既に息はあがっており、先ほどよりも遅くなっている。
 それでも、不安を掻き消すために必死で走り続けた。
「今だ!」
 突如、榛奈の死角からこちらに向けて声が飛んでくる。
 榛奈がその方向を見ると、雑木林でうつ伏せになっている結城がこちらに水鉄砲による射撃を行っている最中だった。
 不意打ちだったため、腕で防ぐことも躱すこともままならず、そのまま顔に直撃する。
「あれ……はるねぇ?」
 結城は撃ってから気づいたらしく、驚いた顔をしながら榛奈を見ていた。
 榛奈もいきなりの射撃に驚き、呆然としていた。
「……ゆーちゃーん」
 ようやく意識が鮮明になった榛奈はそう呟いて、膝から倒れる。
「はるねぇ!?」
 結城は慌てて立ち上がり、榛奈の元へと駆け寄る。
「ゆーちゃんの顔が見えたら、安心して力が抜けちゃった……」
 榛奈は息を切らしながら、少しはにかんでそう言った。
 もっとも、結城には何のことだかほとんど理解できなかったが。
「二人とも、大丈夫ー?」
 先ほどまで小走りで追いかけていたみのりが二人に近づきながら聞いた。
「さっきはよくも人を弄んでくれましたね」
「榛奈は大丈夫?」
 みのりは結城の言葉は無視して、座り込んでいる榛奈に気遣いの言葉をかける。
「うん、ちょっと力が抜けちゃっただけ」
「じゃあ、ちょっとここで休もうか」
 そう言って、みのりは樹に寄りかかる。
「……」
 結城はそんなみのりをジト目で見る。
「ん、どうしたの?」
 しかし、みのりはそんなことまったく気にせず笑顔で答える。
「……さっきのあれ、よく考えたら頭を狙うなら関係ないじゃないですか」
「だって、私はちゃんと服を狙われたらって言ったよ?」
 結城からの怒気を含む様子を気にするどころか、楽しそうに見ていた。
「えっと、何があったの……?」
 そんな二人の会話に榛奈はどちらの味方をすればいいのか判断しかねていた。
「別に、大したことはなかったよ?」
「ああ、別に何もなかった」
「そ、そうなんだ……」
 榛奈は二人の妙に息の合った返答にそれ以上、聞くことは出来なかった。
「そろそろ大丈夫?」
「うん、心配かけてごめんね」
 榛奈は謝りながら立ち上がる。
「ていうか、何で水鉄砲も持たずに走ってきたんだよ」
 結城はふと思い出した先ほど浮かんだ疑問を尋ねる。
「だって、ゆーちゃんはここに来るのは初めてだから迷っちゃうんじゃないかもって……」
 榛奈は少しだけ困った顔をしながら、そう静かに呟いた。
「あのな、僕だって来た道くらい分かるぞ……」
 結城はそんな榛奈に呆れる。
 もっとも、内心ではまんざらでもないようだが。
「やっぱり、美しい姉弟愛は感動するなぁ……」
 そんな二人を見て、みのりはニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。
「……神明さんって、変な人ですね」
 結城はつい、思ったことを口に出してしまった。
 言ってから後悔したものの、既にみのりには聞こえてしまった。
「……結城くん?」
 みのりの顔は先ほどと変わらず笑顔である。
 しかし、結城は空気が凍りつくような錯覚をした。
「お、落ち着いてみのり!」
 そんな錯覚を榛奈もしたのか、慌てて助け舟を出した。
 結城は『はるねぇなら説得できるだろう』と安堵した。
 しかし、そんな予想を榛奈はすぐに裏切った。
「ゆーちゃんはつい、本音を言っちゃっただけなんだから!」
 その言葉を聞いた瞬間、結城は何か終わったような気がした。
 その後、榛奈が回復したために再戦をすることになったが、当たり前のように結城がぼろ負けという形になってしまったのだった……。





☆後書き……?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさ(ry
何について謝ってるのかはあえて黙秘。ていうか、察してください。
体験版なので短いですが理由は秘密。ていうか、察してください(ぁ
1章もついでに付属していますが、特に理由はありません。ていうか(ry




☆遅すぎるコメント返し

>rinさん
その発想はなかったwww

>You平さん
あるあr・・・ねーよw