ねこことばのそら。(仮)

  
  
みのりん「あー……時に溝口さん?」
 とある休日。
溝口「ん? なんだ?」
 よく晴れた空が広がる中、俺は今日も今日とて神明神社にいた。
みのりん「えっとね? 学校で、バトンゲームってのが流行っててね? バトンみたいに回ってきたお題をクリアするってゲームで……」
溝口「ほう」
 そしていつものごとく、みのりと並んで茶をすすっていて……
みにゃりん「だ、だから……今からしばらく、ネコっぽい言葉で話さなきゃいけな……いけにゃい、にゃ」
 盛大に茶を吹いて、眼前に小さな虹をかけた。


溝口「OK、話を整理しよう」
 あやうく笑い死にかけたところをみのりの手刀で沈静化され、羞恥か怒りかで顔を紅潮させたみのりがまくしたてた内容を確認する。
溝口「つまりは……

   ※※※ネコバトン※※※
   これは、受け取った者がネコっぽい言葉遣いで親しい人と小一時間みっちり話しこまなければならなくなる恐ろしいバトンにゃ。
   そして受け取った者は最後に、バトンを回す生け贄を指名するのにゃ。 
   ※※※※※※※※※※

   ということだな?」
みにゃりん「……そうにゃ。私の前はうちのクラスの委員長だったにゃ。見てるぶんにはおもしろいし可愛いしで最高なんにゃけど、自分を指名されたときは血の気が引いたにゃ……」
 いまだ照れくさそうに、しかしある程度は踏ん切りをつけたのか、みのりは流暢にネコ風言葉でしゃべる。
 まぁなんというか、妙な遊びもあったもんだ。受験勉強のストレスによるものだろうか?
みにゃりん「元はインターネット上の日記とかで流行ってたらしいんにゃけど、そのうちメールの文面で一回ネコっぽく打つ、って感じの別バージョンがでてきたんにゃって。
      それを誰かが罰ゲームっぽく実際にしゃべらせよう、にゃんてことになったのが今の形のきっかけらしいにゃ」
溝口「なるほど」
 ちなみにこれほど経緯を懇切丁寧に説明している理由は、『こんにゃ言葉で自然な雑談なんてできっこないにゃ!!』だそうだ。
 要は時間稼ぎというやつか。時間は約1時間らしいが、あまり意図的に長く黙っていると反則らしい。何気にハードなルールだ。
みにゃりん「……ところで。な〜んで溝口さんそんなに嬉しそうなのかにゃ〜?」
溝口「へ? 嬉しそう? いや、別に……」
みにゃりん「嘘にゃ!! さっきから顔がゆるみっぱなしにゃ!!」
 言われて口元に手を当ててみる。……うん、確かに知らないうちににやけてたかもしれない。
みにゃりん「ネコ口調の女の子を見てにやけるなんて変態にゃ! まにあっくにゃ!!」
溝口「マニアックて……」
 どうやらみのりは恥ずかしさを誤魔化すため、八つ当たり作戦に移行した模様。
みにゃりん「えっちにゃー!! 変態にゃー!!」
 ムカ。たしかににやけてたかもしれないが、そこまで言われる筋合いはない。ここは一つ、弱点を突いた反撃を……
溝口「……お前が」
みにゃりん「?」
溝口「ネコっぽい言葉をお前が言ってるから可愛、くて……な、んだ……ぞ?」

 O K 神 様 、 俺 が 悪 か っ た 。

  言ってる途中で自分でも恥ずかしくなって後半尻すぼみになるようなクサいセリフなんぞ言うべきじゃなかった。
 今では反省も後悔もしている。だから拷問は勘弁してください。マジで。
みにゃりん「……な、……にゃ、」
 もっとも……みのりは顔真っ赤、俺も自爆して顔真っ赤。この非常にこっ恥ずかしい空気もある意味拷問なのだが、そんなことを言ったら八百万の神様全ての怒りを買うであろうこと請け合い。
 ……いや何考えてんだ俺。落ち着けーおちつk
みにゃりん「やぁだにゃー!! もー溝口にゃんたらーっ!!」
溝口「ほヴぇにゅッッッッ!??」
 照れにより生じたエネルギー全てを秘めて突き出されたみのりの右手は、いい感じに掌手となって俺の左頬にクリーンヒット。
 さらにはいつも通り拝殿手前に座ってたもんだから、吹っ飛ばされた先にあった神社の柱に右即頭部がクリーンヒット。
 意識が遠のいていく。そう、これは……照れ隠しという名の一撃必殺だ。
みにゃりん「ああっ!? 溝口にゃん? 溝口にゃーーん!!!!」
 OK神様、これが天罰なのですね。どうか命だけはご容赦を……ぐふっ(吐血のイメージ)


みのりん「もー。溝口さんがいきなり変なこと言うからいけないんだよ?」
溝口「……面目ない」
 幸い神様は怒りをおさめてくれたらしく、命に別状無くまもなくして意識を取り戻した。
 生きてるって素晴らしい。
溝口「しかし……みのりも律儀だな。俺相手にゲームのルール守ったって、それを証明なんてできないだろうに」
 遅まきながら今気付いたゲームのルールの破綻を口にする。
みのりん「ん? 証明も何も、ほらあそこに」
 言ってみのりが拝殿の右側面との角を指差す。
 目を向けると……顔半分だけ覗かせている少女が2人いた。
  2人とも髪はショートボブで、1人はヘアバンドで前髪を後ろに止めている眼鏡をかけた真面目そうな少女だ。
 一連のやりとりに当てられてか、やや赤面している。
 もう1人は活発な印象のやや赤髪な少女。この手のやりとりを茶化すのが好きそうなニヤニヤとした笑みで手を振ってきた。
みのりん「眼鏡の子が私にバトンを回した委員長で、もう一人が委員長にバトンを回した友達ね。……? おーい溝口さん、聞いてるー?」
 つまりは、俺はあの2人が見ている前であんなこっ恥ずかしいセリフをほざいたわけで。
 OK神様、この状況の代わりに物理的拷問で勘弁してやると言ってくれれば喜んでお受けします。
みのりん「あ、あとー。溝口さんルール間違って理解してたみたいだけど、バトンを回す生贄はいこーる前の人のネコ言葉を聞いた人だから」
溝口「……え」
みのり「次は溝口さんの番ってことだよ♪ でもそうだなぁ〜。会社の人じゃ流石に問題だし私達が監査できないから……水穂さんなんてどう?」(※水穂=みのりの叔母で神明神社の宮司。落ち着いた雰囲気の美人さん)

 O K 神 様 、 貴 方 は サ ド で す ね 。

 透き通った青い空の下、みのりとその友達2人は俺にどんな言葉を言わせるかで盛り上がっている。あ、今『ぷにゃう』って言わせられることが確定したらしい。
 そして、狙ったかのようなタイミングで水穂さんが通りかかる。

 地獄の罰ゲームが、始まっていく。


終。

作:Crus-Ade(阿呆)