悶絶・純愛時代劇SF

   

〜序幕〜

 川島結城は和泉屋に住み込みで奉公する青年である
 幼い頃に両親と死別し、親戚の和泉屋に貰われてきた
 真面目な働き振りが認められて手代として使われている
 また、和泉屋の一人娘、榛奈(おはる)とは互いに憎からず思いあっているが姉弟の様に育てられたためもう1歩が踏み出せないでいる

 そんなある日、使いに出ていた榛奈を町に出ていた代官が見初める
 代官は榛奈を自分の物にせんが為、和泉屋に使いを出すがおはるの心を知る和泉屋(榛奈の父)は使いを追い払う
 強攻策に出ようと思うも、和泉屋は業績も良くケチの付けようが無い…
 そこでしゃしゃり出てきたのが、越後屋
 癒着、裏取引等…黒い噂の絶えない商家である
 代官に取引を持ちかける越後屋…
「あの少女をお代官様の元へ届けて見せましょう」
「ほう?」
「うまくいった暁には…」
「わかっておるわかっておる、そちも悪よのぅ」
「いえいえ、お代官様こそ…」
『はっはっはっ』

 そして、動き出す越後屋

 ある日、榛奈は町で倒れていた老人を、家まで送り届ける
 しかし、礼に出された檸檬牛乳を飲んだ途端意識を失ってしまう

 榛奈が帰ってこない事に気を揉む和泉屋の面々の前に、知り合いの浪人溝口が現れ告げる
「おはるさんが…越後屋の中に入って行ったのを見た」と

 結城は越後屋を問い詰めるが、知らぬ存ぜぬとかわされてしまう

 結城が悩んでいる間に、代官屋敷に連れていかれるおはる。

 榛奈の運命や如何に!?


〜一幕〜

当ても無く、町をぶらつく結城の足は自然と近所の神社に向かっていた。
いっそ神頼みでもしてみるか、と益体も無いこと考えていると本殿前に溝口が座って茶を啜っているのが見えた
「あ、溝口さん…」
「結城君…その様子だとあまり良い状況じゃないみたいだね」
「はい…」
落ち込む男二人の後ろから、近づく影が一つ
「何か困りごと?」
 榛奈の友人にして、この神社の巫女を務める神明みのりである
「あぁ…はるねぇが…」
「おはるがどうしたの?」

 かくかくしかじか

「なるほど…もしかしたら力になれるかも知れないよ?」
「な、なんだってー!?」
そして、笑顔でみのりは一点を指差す
「賽銭箱?」
にこりと笑うみのりに、げんなりした表情の結城
それでも、律儀に賽銭を入れる彼は尻に敷かれるタイプである

賽銭を投げ込み、手を合わせた瞬間辺りを光が包み込む…様なことは無く
ただ、本殿の奥から何かが恐ろしい勢いで飛び出してきた
「まじかる☆どろっぷキーック!(お賽銭ありがとうの意)」
現れたソレは、純白のドレスを身に纏い…肩からたすきを掛け、迷う事無く結城の顔面に両足で垂直に着地していた
「ぐはぁぁぁぁ!?」

華麗に賽銭箱の上に着地するなり、仁王立ちで彼女は言い放った
「華麗に参上!でっどりーえんじぇるまぢかる☆ゆきちゃん!」
ふん、とボリュームに乏しい胸を張る
突然といえば、突然
あまりといえば、あまりな展開に呆然とする結城
「(あれ…、ここって江戸時代じゃなかったっけ…)」
「ふふん、少年よ。それは愚問と言うものだー!」
「と言うと?(声に出してないのに)」
「この有希ちゃんに時空の壁など有って無きが如しなのだよ!」
再び、得意げに無い胸を張る
「みのりさん…幾らなんでもコレは無いんじゃ…」
「みのり…俺もこれは流石に酷いと思うぞ…」
男ども二人にヒソヒソと文句をつけられ、彼女は一言
「どんまい」
良い、笑顔だった

「ふむふむ、つまりその悪代官を燃やせばいいんだね」
「違う!姉を助けたいんだってば!」
「燃やすついでにお姉さんを助けろと?」
「助けるほうがメインだ!」

相手をすると非常に疲れる自称天使(みのり曰くこの神社の生神様だとか)に、根気強く説明した所

「面白くない」
そんな返答が帰ってきた
「流血も炎上も無いんじゃ、私の出番は無いねー」
「(どんな天使だよ!)」
と、思いながらも
「そこを何とか助けてくれませんか?」
「えぇぇぇぇ」
凄く嫌そうな顔をされてしまった
「それじゃー」
よいしょ、と座り込んでいた賽銭箱の上から立ち上がり
「レッドスネークカモーン!」
くるくる回りながら、そう唱えると辺りに光が満ち
光が収まった頃にはそこには、黒い影が現れていた
「…あ、出番ですか?」
キョロキョロと辺りを見回し、そう有希さんに聞く
「多奈〜、折角の出番何だからもっと元気にいこうよー」
「無理です」
「えー、こちらの方は…?」
 少々げんなりしながらも、先を促す
「伊勢崎多奈、魔女です」
「(…ギャグ?)」
「違います」
「うわ、声に出してなかったのに!」
「顔に出てたよ」
 みのりさんが冷静に突っ込む
「まぁ、話は後ろで聞いていましたので」
 と、本殿から出てくる多奈さん
「姉さんを助けるいい方法があるんですか!?」
 勢い込んで尋ねる結城に、ニコリと笑って彼女は答えた

「武力行使です」
「武力行使って…」
 若干引き気味の結城に多奈はあっさりと告げる
「貴方が、代官の屋敷に潜入して大立ち回りを演じるんですよ」
 それだけ言うと、結城の手を取り
「では、行きましょうか」
 どうやって?
 と、問う前に二人の体は宙に浮かび上がっていた
「え、な、これ…!?」
「魔女ですから」
「よーし、いってこーい!戦果を期待してるぞー!」
 のん気に手を振る有希、呆然と見上げる溝口
「あ、その必ず連れ帰ってきます!」
 混乱しながらも、決める彼は主人公であった

「期待しないで待ってるよ」

〜一幕・閉〜


「はい、ここでCMの時間です。お相手は」
「真鶴成葉と」
「私、辻堂都でお送りします、と」
「…えーっと、バランススウィングの紹介をしたらいいのよね?」
「そーそー、っても別に目新しい商品ってワケじゃないのよねー」
「そ、それは都ちゃんが言うのはマズいんじゃ」
「そうは言ってもねぇ?○○リー・メイトとかのパクリだし」
「カット!今のセリフカットで!」
「もー、成葉さん気にし過ぎだって」
「生活が懸かってるからね、慎重にもなっちゃうの」
「大丈夫大丈夫、私にいい考えがあるから」
「良い考え?」
「とりあえず、脱いでおけばいいんじゃ」
「カットカットカットー!」
「あら、もう時間だってさ」
「全然お仕事できなかった…」
「心配無いってー、とりあえず歌っておけば宣伝にはなるでしょ」
「(そんないい加減でいいの!?)」
「3、ハイ」
「ららら〜♪お前は黙ってコレを食え〜♪」
「あ、もう終わりだって」
「結局宣伝できなかったー!」




〜二幕〜


 普段生活している町を黒い魔女と二人で飛び越え、代官屋敷の蔵の裏に着地するまで10分とかからなかった
「これは有希からの餞別です」
 そう言い、小さな風呂敷を渡すと
「では、貴方の健闘に期待します」
 そのまま、彼女は来たときと同じように飛んでいってしまった
「一人でどうしろってんだ…」
 神社に行く前とは別の意味で途方に暮れる結城
「餞別って…刀でも入ってるのか…その割には軽いけど…」
 とりあえず、風呂敷を解く
「こ、これは!?」
 中身は至ってシンプルであった
 着物(女性用)である
「あ、あのクソ天使…」
 ぷるぷる震える彼の手元から一枚の紙切れがひらりと舞い落ちた
「ん?」
 紙片には一言
『女装は潜入する時の常套手段なのだー(笑)』
「う、うがぁぁぁぁぁぁ!」
 場所を忘れて、男の雄叫びが響き渡った


「有希、彼に何を渡したのですか?」
「浪漫を」


「む、この辺りで不審な声が聞こえたのだが」
 代官屋敷の蔵の裏、たまたま近くに居た男が覗くとそこには一人の美少女が!
『あ…』
 お互い、気まずい一瞬
「見かけぬ顔だが、お主は?」
「え?あ、おれ…じゃない、私は最近奉公にきたので迷ってしまって…」
 咄嗟に適当なウソを吐く、はっきり言って見え見えである
「ほう…このお屋敷は広いからなぁ…」
 が、幸いな事に男は馬鹿であった
 不必要なまでに近づくと、さり気無い手付き(だと、本人は思ってる)で、結城の体をベタベタとさわり始めた
「あの私…お代官様に呼ばれていますので…」
 嫌悪感を全力で隠して、結城はその場を立ち去った
「ぬぅ…名前ぐらい聞いておくべきであった…」
 残された男の呟きは、薄暗い闇へと吸い込まれていった

「くそ…本当に広いな…」
 男の魔手から逃れた結城は、屋敷の中を走り回っていた
 だが、屋敷は想像以上に広く、時間の経過と共に結城の焦りはピークに達しようとしていた…その時
「あーーれーーー!」
 悲鳴が屋敷の奥から聞こえてきた
「今の声は…!?」
 悲鳴の元へ走る結城
「ここか!」
 部屋を見つけるなり、飛び込んだ!
「はるねぇ!助けにきた…ぞ?」
 勇んで飛び込んだ弟が見たのは
「ほーら、ほーら、回れーー」
 姉が、代官の腰帯を巻き取って遊んでいる姿であった
「あーーーれーーー…ん?」
 嬉しそうに回っていた代官が、結城を見つけるなりその動きを止めた
「美しいお嬢さん、貴女はのお名前を聞かせてもらっていいかい?」
 次の瞬間、結城の目の前に跪き、手を取り
「あ、ゆーちゃん」
 そこで榛奈が気がついた
「ゆーちゃん…おゆうさんとお呼びしても宜しいか?」
 言いながら、手の甲に口付けを
「こ、この感触は!」
 代官は目をカッと見開き、後ろに跳ね飛んだ
「貴様、男だな!」
「いや、見たままじゃないか」
 チラリと、自分の格好を確認して
「ちょっとした気の迷いだ!」
 言い直した
「とにかう、はるねぇは返してもらう!」
 ズカズカと踏み込み榛奈の腕を掴むと、そのまま一目散に逃げ出した
「…あ」
 一瞬、呆然と二人の背中を見送った代官であるが、直ぐに叫びながら走り出した
「者どもー!曲者である、出合え出合えー!」

 俄かに騒がしくなる屋敷内
 追っ手を撒きながら、屋敷を走る、走る、(榛奈が)コケる、走る
 そして…
「囲まれた…か」
庭に面した廊下で、二人は完全に包囲されていた
「ゆーちゃん…」
 ぎゅっと、結城の着物の裾を掴む
「はるねぇ…俺が引き付けてる間に、逃げろ」
「!?」
 小声で会話をする二人に
「はっはっはっはっは!愛の逃避行もここまでだな!」
 家来の間を代官が悠々と進んできた
「者どもぉ!二人を引っ捕らえろ!」
 じりじりと狭まる包囲の輪
 榛奈を背に庇い、結城は前に出る
「やってやらぁ!」
 手近に居た侍に殴りかかった
 ごす
 良い音だった
 峰打ち一発、結城は肩を押さえてそのままうずくまる
「ゆーちゃん!」
 榛奈の叫びに立ち上がろうとするも、その間に包囲の距離は縮まっていた
 手が伸び、二人が捕まる

「そこまでだー悪党どもー!」
 捕獲の腕が、止まる
「何奴!」
 代官の誰何の声が飛ぶ
「尋ねられれば、答えねばなるまい」
 そこで、ソレ達が塀の上に立っていることに全員が気がついた
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと誰が言う!?」
『シラネーヨ』
「誰も言わなきゃ、私が叫ぶ!この世に悪の栄えた試し無し!でっどりーえんじぇるまぢかる☆ゆきちゃん、満を持しての登場だー!」
「本音は?」
 横に立っていた、黒い魔女がポツリと呟く
「コーモン様に憧れたのだー」
「有希の今の姿と口上はあの人とは全く違うと思うのですが?」
「見せ場で出てくるのが、あのおじーさんの役割なんだよ」
 下で呆然としている一同を気にせず、二人はマイペースに会話を続ける
「さて、多奈さん」
「何ですか?」
「少々、懲らしめてやりなさい」
 ため息一つ、黒い魔女は動き出した
 何処からとも無く取り出した、馬鹿デカイ刀を振り回して次々と敵を吹き飛ばしていく
「ぬぁ…者どもかかれぃ!」
 混乱から立ち直った、代官の声に導かれ何人かは刀を構えるも
「貴方達の抵抗に感謝します」
「ぎゃーー!」
 何の見せ場も無く、吹っ飛ぶ一同
 数分後、辺りで立っているのは代官と結城、榛奈…後、空気の読めない二人だけであった
「正義の勝利だー!」
 何もしていない天使は得意げであった
「ま、まだまだ行くよー!」
 代官がそう叫ぶなり、後ろの障子が開き…数十人の手下が控えていた
(男どもの服装が、全員看護服だったり巫女服なのは地獄絵図である)
「我ら、代官様直属の部隊!そこに倒れている三下どもとは訳が違うぞぉぉぉ!」
 次々と多奈に斬りかかるその光景を見て、有希はニヤリと笑った
「面白い!私も参加するぞー!」
 塀から勢い良く、飛び降り
「まぢかるどろっぷきーっく!」
 着地点に居た一人を蹴り飛ばし、乱戦の中に突っ込む自称天使
「…えーっと」
 多奈が刀を振り回せば数人が吹き飛び、有希が突っ込めばそこかしこで爆発が起こる
 既に、結城と榛奈に注意を払っている者は一人として居なかった
「…帰るか」
「うんっ」


 こうして、二人は手を繋ぎながら和泉屋へと帰ったのである

 余談であるが、帰る途中にみのりに、帰ってからは家族全員に女装を見られ(当然、近所の人間にも)、結城が数日間引きこもったのだが…まぁ、終わり良ければ全て良し
 江戸は今日も平和であったとサ


 更に余談…二人が和泉屋に帰りついたその数時間後、代官屋敷が炎上・爆散した事を此処に記し、締めとさせて頂く

〜二幕・完〜